ホワイトペーパーとは、特定のトピックに関して深く研究・調査された情報を掲載した文書のことです。
政府が発行する「白書」から派生し、現在では多くの企業や団体が、ホワイトペーパーを発行しています。
近年、とくに注目されているのは、BtoB企業が、マーケティング活動の一環として発行するホワイトペーパーです。
ホワイトペーパーは、製品・サービスの販促を目的とするツールではありません。しかし、企業の専門性や権威性を示すことができるため、間接的にビジネスにプラスの影響を与えます。
本記事では、
「ホワイトペーパーとは何か知りたい」
「自社でも、ホワイトペーパーを作りたい」
という方に向けて、基礎知識から成果につなげる重要ポイントまで解説します。
ホワイトペーパーの本質的な価値を理解して、自社のビジネスに活用していきましょう。
まずは「ホワイトペーパーとは何か?」という基本的な事項から、確認していきましょう。
辞書的な意味を確認しておくと、「ホワイトペーパー(white paper)」は、日本語でいうと「白書」です。
白書とは、政府が公表する報告書のことをいいます。
▼ 白書とは?
政府が政治・経済・外交などの実情や施策を国民に知らせるために公表する報告書。
出典:日本国語大辞典
イギリスで政府が公表する公式外交文書の表紙が白いところから、この名が生まれた。
わが国では、昭和22年(1947)7月に片山内閣が発表した「経済実相報告書」に始まり、以後、数多く出されている。
たとえば、以下は政府サイト内の画像を[白書]で検索した結果です。さまざまな白書(ホワイトペーパー)が発表されていることがわかります。
一方、現代では、マーケティング(とくにBtoBビジネス)において、企業が発行するホワイトペーパーが、重要な意義を持ち始めています。
もともとは政府が発行する文書という意味だった「ホワイトペーパー」ですが、20世紀半ば頃から、他の種類の文書にも使われ始めました。
マーケティング戦略にホワイトペーパーを活用する企業が、米国企業を中心として、増えていったのです。
その背景にあるのは、
「ホワイトペーパーを通じて、自社の“権威性”や“専門性”を表したい」
という、企業側の戦略的で明確な意図でした。
じつはここが、ビジネスにおけるホワイトペーパーを理解するカギとなります。
日本では、
「ホワイトペーパーとは、商談資料や提案書をPDF化したもの」
といったニュアンスで捉えている人が、少なくありません。
しかし、その理解では、せっかくホワイトペーパーを作ってもホワイトペーパーの真価を実感できない恐れがあります。
重要なポイントですから、次の章で「企業がホワイトペーパーを作る意義」について、詳しく解説します。
2. なぜ企業はホワイトペーパーを作るべきなのか?
なぜ企業は、ホワイトペーパーを作るべきなのでしょうか。その意義を掘り下げてみましょう。
前述のとおり、“政府”が作るホワイトペーパーの存在意義は、
「政府が政治・経済・外交などの実情や施策を国民に知らせること」
にあるといえます。
では、“企業”が作るホワイトペーパーの存在意義とは何でしょうか。
ひとつの答えは、
「特定のトピックについて深く研究し、業界内の問題や顧客の課題に対して、最善の解決策を示すこと」
と表現できます。
企業が、その業界やテーマについて持っている専門知識を最大限に活かして、高度なレベルのホワイトペーパーを発行することは、すなわち、自社の専門性を証明する・権威性を高めるという果実をもたらします。
企業が作る資料としては、ほかに商談資料や提案書があります。
なぜ商談資料や提案書とは別に、わざわざホワイトペーパーを作るのかといえば、役割が明確に異なるからです。
▼ ホワイトペーパーと商談資料・提案書の違い
ホワイトペーパー | 特定のトピックについて深く研究し、顧客が抱える問題に対しての解決策や新しい知見・洞察を提供するレポート。自社の専門性を証明し権威性を高める。 |
商談資料・提案書 | 企業の製品・サービスを宣伝・推奨するための販促資料。優位性や強み、顧客にとってのベネフィットをアピールして収益につなげる。 |
ホワイトペーパーと、他の資料の違いを一言でいうなら、「研究の深さ」といえます。
ホワイトペーパーを作ると、
「自社が、どれだけ深い専門知識を持っているのか?」
「提案するソリューションは、なぜ最善なのか?」
といったことを、エビデンスとデータの徹底的な分析を通じて、読者に伝えることができます。
前述のとおり、ホワイトペーパー自体は、製品・サービスを宣伝するものではありません。
しかしながら、ホワイトペーパーによって示された専門知識のレベルや、根拠を持った説得力のある主張が、ビジネスに好影響を与えることは、間違いありません。
ここまで概念的なお話を中心にしてきましたが、続いてご紹介するのは、具体的なビジネスメリットについてです。
ホワイトペーパーには、以下のメリットが期待できます。
ひとつずつ見ていきましょう。
1つめのメリットは「リード獲得数の増大」です。
前提となる背景からお話しすると、近年、日本だけでなくグローバルな傾向として、新規顧客獲得の広告効果が低下しています。
実際に、自社あるいは取引先企業との会話でも、
「最近、新規顧客が獲得できない」
という話を聞く機会が多いのではないでしょうか。
2000年代は、デジタル広告を中心として広告からの新規獲得は好調でした。2010年代後半頃から陰りが見え始め、マーケティングの広告予算をほかの施策に振り替える企業が増えています。
広告以外の施策の代表例として、以下が挙げられます。
「コンテンツマーケティング」と聞くと、企業のオウンドメディアやお役立ちブログの運営の印象が強いかもしれませんが、ホワイトペーパーもコンテンツマーケティングの一部として位置づけられます。
「ホワイトペーパー」という、顧客にとって価値あるコンテンツを提供することを通じて、広告ではリーチできない顧客層にリーチし、リード獲得数を増やすことができるのです。
2つめのメリットは「顧客とのリレーションシップ構築」です。
先ほど、広告以外の施策例として「CRM(顧客関係管理)」を挙げましたが、ホワイトペーパーは、CRMにおける顧客との関係構築にも有効です。
たとえば、定期的(四半期に1回など)にホワイトペーパーを発刊することで、顧客と接触する機会を、顧客にとって有意義な形で創出できます。
ホワイトペーパーのコンテンツが顧客にとって有益な情報であるほど、顧客からは感謝され、顧客ロイヤルティ(信頼感や愛着心)が醸成されます。
顧客ロイヤルティは、チャーンレート(解約率)やリテンションレート(顧客維持率)に直結する指標であり、長期的な収益に影響します。
3つめのメリットは「業界における影響力の強化」です。
とくにBtoBの業界においては、
「どの企業が権威を持っているか?」
「業界で力のある企業と認知されているか?」
といった“業界内での評判”が、ビジネスに影響を与えます。
業界内の重要な問題に関わるトピックや、高い専門性を持つ証となる研究成果をホワイトペーパーとして発表することは、業界からの注目を集めて認知度を向上させる良策です。
たとえば海外に目を向けると、Googleは、クラウドや自然言語処理、セキュリティなどのテクノロジーを解説する高品質なホワイトペーパーを発行し、業界内で一目置かれる存在として、影響力を持っています。
4つめのメリットは「ホワイトペーパー作成を通じた自社の成長」です。
深い専門研究や、高度な専門技術の探求を行い、それをホワイトペーパーとして公に発表する一連のプロセスは、自社の技術的成長や熟達化に、大きく寄与します。
逆にいえば、成長のない企業には、良質なホワイトペーパーは作れないのです。
「顧客にとって価値のある、良質なホワイトペーパーを作るためには成長が不可欠であり、成長することでまた顧客に価値を届けられるようになる——」
そんなプラスのスパイラルが、ホワイトペーパーによって巻き起こります。
ホワイトペーパーから得られるのは、「リードを獲得できる」といった短期目線の利得だけではありません。中長期的に、大きな実りを与えてくれることを、お伝えしたいと思います。
一方、マーケティングやセールスの施策としてホワイトペーパーを捉えたとき、マイナス面がまったくないわけではありません。
あらかじめ把握しておきたいデメリットが2つあります。
1つめのデメリットは「リソースの確保が必要」であることです。
繰り返しになりますが、ホワイトペーパーの肝となるのは、“顧客にとって価値のある情報提供”であり、“自社の専門性や権威性を示すこと”です。
そのためには、詳細なリサーチや分析・研究といったプロセスに、時間と労力をかける必要があります。
さらに、情報やデータを視覚的にデザインし、専門知識を持たない顧客層にも理解しやすくまとめるためには、制作のリソースも必要となります。
2つめのデメリットは「収益性への貢献は中長期的」であることです。
CTA(Call To Action:行動喚起)として契約や申込みなどの購買行動を設計する販促資料と、ホワイトペーパーでは、役割が異なります。
「ホワイトペーパーを発行して、すぐに売上が急増」というケースは、ゼロではありませんが、まれです。
すぐに収益に直結しないからと、ホワイトペーパーをやめてしまう企業が見られますが、もったいないことです。
あらかじめ、
「ホワイトペーパーの成果は、数ヶ月〜1年の中長期目線で、長く安定的に獲得する」
というスタンスで取り組むことで、途中の挫折を防ぎましょう。
「これから、初めてホワイトペーパーを作りたい」
というとき、どこから着手すればよいのか、迷うかもしれません。
ここでは、「基礎」として、まず知っておくべき必携知識をご紹介します。
詳細を学ぶために役立つほかの記事も適宜紹介しますので、最初の一歩としてご活用ください。
ここまで何度か「顧客にとって価値のあるホワイトペーパー」という言葉が出てきました。
では、具体的にどんなホワイトペーパーなら価値があるといえるのかといえば、次の4つの条件があります。
【希少性】独自化する | 利用データ、アンケート、顧客の声など、自社が業務や調査を通じて直接取得したオリジナルの情報を活用すること |
【体系性】キュレーションする | 一般公開されているバラバラの情報を整理してまとめたり、ある情報を別の分野の情報と関連付けしたりすること |
【容易性】翻訳する | 通常は専門用語が多用されるような難解な内容を、誰もが理解できる分かりやすい文章表現・画像表現 (イラストや図など) に置き換えること |
【信頼性】権威付けする | 提供する情報が正確であり、必要な情報が漏れなく含まれている点をチェックする専門家の監修があること |
ホワイトペーパーを作るときには、希少性・体系性・容易性・信頼性の4つの条件を満たすことを意識しましょう。
ホワイトペーパーの種類は、大きく6つに分けられます。それぞれの企業や顧客の状況に合わせて、選択しましょう。
種類 | 解決できる顧客課題 | おすすめケース |
---|---|---|
(1) トレンド型 | 業界の最新動向や最新サービスに遅れることなく、キャッチアップできる | ・業界の変化や移り変わりが早い 〔例〕2022年アフターコロナ時代の人材業界動向 |
(2) 成功事例型 | 同業界や同規模の企業の成功事例を知ることで、サービスを導入した際の効果を想像できる | ・ネームバリューのある企業の事例がある・数字として成果の大きい事例がある 〔例〕食品業界大手5社が導入した成功事例集 |
(3) サービス比較型 | 同ジャンルで似たようなサービスが乱立する中で、「料金」「機能」「デザイン」など特徴の違いを手間なく比較できる | ・競合は多いが他社サービスにはない特徴を持つ 〔例〕AIチャットボットの20ツールを徹底比較 |
(4) イベントレポート型 | 参加できなかったイベントやセミナーの内容を得られる | ・月1回以上で継続的にセミナーを開催している 〔例〕ゼロから始めるECサイト立ち上げセミナー |
(5) ノウハウ提供型 | 製品・サービス関連や施策の専門知識を綱羅的に把握できる | ジャンルとして確立したばかりで、公になっているノウハウが少ない 〔例〕リモートワーク導入のノウハウを大公開 |
(6) 調査レポート型 | アンケートやインタビューを通して収集された、信頼度の高いデータや情報を得られる | 調査に協力的なユーザーや顧客がいる、もしくは不特定多数向けに調査費用をかけられる 〔例〕マーケティング投資に関する調査レポート |
ホワイトペーパーを作るときには、やみくもに着手するのではなく、適切な手順に従って作ることが大切です。
基本的な流れは、以下のとおりです。
上記の詳細はホワイトペーパーの作り方とは?ビジネス成果を最大化する手法にて解説しています。参考にしながら、ホワイトペーパーづくりを進めてください。
簡単にイメージしたい方向けに、一部を抜粋してご紹介しましょう。
まずは顧客像を「ペルソナ」として詳細に描きます。顧客が抱える課題を明確にすることで、顧客のニーズに合うホワイトペーパーを作れるようになります。
次に、ストーリーラインを作ります。たとえば、以下は問題解決型のストーリーラインです。
ストーリーラインができたら、各ページの文章をライティングしていきます。
「主張・理由・事実」の三角ロジックで書くと、ホワイトペーパーの説得力を高めることができます。
概要 | 例 | |
---|---|---|
主張 | 言いたいこと・訴えたいこと | 地球は青い惑星だ |
理由(解釈) | 「主張」の確からしさを示す要素 | 大半が海で覆われているから |
事実(データ・実例) | 「主張」「理由」を補強する客観的な材料 | ある宇宙飛行士も「地球は青かった」と発言した |
前提(共通認識) | 「主張」「理由」「事実」で説明が不必要なこと | 海は青い |
ライティングまで完成したら、デザインに落とし込んでいきます。ホワイトペーパーのデザインは、プロフェッショナルに見えることを重視しましょう。
具体的なポイントとして以下が挙げられます。
▼ プロフェッショナルなデザインに見せるポイント
詳しくは、これさえ読めば失敗しない「ホワイトペーパーのデザイン」重要ポイントにてサンプル画像を使って解説しています。参考にしてみてください。
ホワイトペーパーを作ると同時に、
「作ったホワイトペーパーを、どう配布するか?」
というディストリビューション戦略を立てることも重要です。
自社サイトにダウンロードリンクを設置する以外にも、さまざまな選択肢があります。
▼ 配布チャネルの例
種類 | 例 |
---|---|
(1) オウンドメディア | ・記事コンテンツ(ページ末尾やポップアップから誘導) ・ランディングページ ・ホワイトペーパー専用ページ ・自社メルマガ |
(2) 個別配布 | ・商談 ・メール |
(3) ウェビナー | ・参加者向け特典 ・アンケート回答のインセンティブ |
(4) Web広告 | ・リスティング広告 ・各種ディスプレイ広告 ・リターゲティング広告 ・SNS広告 |
(5) プレスリリース配信 | ・PR TIMES |
(6) 比較コンテンツ提供サイト | ・BOXIL(ボクシル) ・LISKUL(リスクル) |
(7) ビジネス系メディア | ・日経ビジネス ・東洋経済 |
どのチャネルが適しているかは、ターゲットとしている顧客層、予算、業界の性質などによって異なります。
自社にとっての最適解をよく検討する必要があります。判断しにくい場合には、低コストで小さなテストを繰り返しながら、費用対効果のよいチャネルを探り当てていきましょう。
ホワイトペーパーのマーケティング戦略については、ホワイトペーパーでBtoBのマーケティング成果を出す手法にて詳説しています。
最後に、本記事の締めくくりとして、成功するホワイトペーパーの重要ポイントをお伝えします。
優れたホワイトペーパーとして話題になるホワイトペーパーは、かならず「深い研究」を伴っています。
まして今は、インターネット上で簡単に情報を入手できる時代です。
通常のWebページに比較すると、閲覧までに手間(個人情報の入力やダウンロードなど)のかかることの多いホワイトペーパーは、顧客にかけてもらった手間以上の価値を、届ける義務があります。
安易に情報を羅列しただけのホワイトペーパーになっていないか、深い研究を伴った内容となっているか、自問自答してみましょう。
どこにもない情報、独自の分析、労力をかけた調査など、探究心に満ちたホワイトペーパーこそ、自社の専門性・権威性を表して、ホワイトペーパー本来の価値をもたらしてくれます。
ホワイトペーパーの「中身」に時間をかければかけるほど、ライティングやデザインなどの制作にかけるリソースが足りなくなることがあります。
そんなときには、ホワイトペーパーの制作を支援する会社にアウトソーシングする選択肢があります。
弊社では、ホワイトペーパーの制作代行を請け負っています。
ホワイトペーパーのプロフェッショナルの視点からのサポートをご提供していますので、お気軽にご相談ください。
本記事では「ホワイトペーパー」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめておきましょう。
なぜ企業はホワイトペーパーを作るべきなのか、背景を解説しました。
ホワイトペーパーのメリットとして、以下が挙げられます。
一方、ホワイトペーパーのデメリットも押さえておきましょう。
ビジネス成果を高めるホワイトペーパーの必携知識として4つのポイントをご紹介しました。
成功するホワイトペーパーの重要ポイントはこちらです。
ホワイトペーパーを活用して、さらなる飛躍を目指していきましょう。
さらにノウハウを知りたい方むけに「ホワイトペーパー制作完全ガイダンス」をご用意しました。